1993年に初めてアメリカ(ニューヨーク)に行ったとき、僕はクレカを持っていなかった。日本では特には必要でなかったので作る気もなかったからだ。しかし、ホテルにチェックインしようとしたらクレジットカードを見せろというので、「いや、現金で払うから」と言ったらデポジット(後で返してもらえる預託金)を50ドル取られた。ホテルやレンタカーなど後から追加支払いがありうるところでは「現金で払うやつ」は全然信用されないことがわかった最初の事例だった。

現金だけで生きていけないのか?と聞かれればそんなことはないし、そもそも成人しているのにクレカの1枚も持たない人は今は殆どいないだろう。しかし、アメリカで生活するのであれば「アメリカ発行のカード」が必要だ。そして、
日本でいかにまじめに生きてこようとも、手持ち資産が多かろうとも、アメリカにやって来たばかりの新参者がクレカを手に入れることは簡単ではない。

アメリカでクレカに申し込むと、それ以前のアメリカ発行のクレカの購入・支払い実績(これを「クレジットヒストリー」という)に基づく「クレジットスコア」が審査され、一定以上良好でないと却下される。クレジットスコアは民間調査会社がデータを持っていて、カード会社やローン会社などの金融機関は審査時にそれを見れる。

では日本から来たばかりのヒストリーもスコアも何もない日本人はどうなるのか。基本発行してもらえない。そこで仕方なく、「セキュアカード」と言ってデポジットを3000ドルとか入れれば発行してもらえるクレカを申請することになる。勿論僕も最初はそれだった。そのカードをせっせと使ってせっせと返してスコアを上げると「会費無料カード」などもいつか発行してもらえる日は来る。だけど、その日が来るまでは以下のような「屈辱」を味わうことになる。


TJ Maxという全国チェーンのディスカウントショップでモノを買ったら「TJカードを作れば10%オフよ。その場で作れるよ」と言われ申請書を書いてみたが、店員が「何回入力しても機械が誤動作するのよね」と。それ、誤動作じゃないから。スコア不足だから。

コスコ(Costco)にて、メンバーカードを作る際にAmexのクレカ機能付きのを勧められる。スコアがないから無理だと言うのに「任せとき!」と係員がその場で手続きを進めるもあえなく却下。この係員、今度はAmexに電話を入れて方法はないのか聞きだし「あなたの銀行残高をAmexに送れば大丈夫よ」という。やってみたが見事に却下。

Macy'sというデパートでモノを買った際、「今Macy'sカードなら20%オフよ。作ったら?」と言われる。少しスコアも上がっている気がして「じゃあ宜しく」とお願いしたが、「あれ、機械が誤動作するのよ。何故なのかしら」と。「気にしないで。さようなら」とにこやかにひきつった笑みを浮かべ、僕は家に帰った。


ここまでなら「いいじゃないか、値引きは得られなくとも現金で買えないわけじゃなし」とは思う。「そのセキュアカードとかいうやつで、慎ましく買物してれば問題ないんじゃない?」とお思いの諸兄も多いだろう。しかし、辛いのは高額商品。車のローンも家のローンもクレジットスコアで審査されるので、却下なら現金払いだ。許可された場合でも、スコアの高い人は金利が優遇され、低い人は高金利になる。

僕ら夫婦には苦い経験がある。移住の半年前、「アメリカのヒストリーがなくても住宅ローン審査に通る」とキャセイ銀行に言われ、申請書を書き、資料を用意し、スキャンしてはメールで送り、一度渡米して担当者にも会い、購入する家も決めて日本に戻ったら、再度アレ出せコレ出せと資料の追加を求められ、何と最終的に却下になった。訳のわからない理由をダラダラ言っていたけれど、要は「やっぱアメリカのヒストリーは要るんだった。テヘ」というのが真相だった。

「なら家は借りてればいいじゃん」と言われれば、おっしゃる通り。しかしアメリカの賃貸住宅は高すぎる。僕の住んでいるところでも、買えば1600万円の60平米の家が賃貸だと毎月13万。これだけ広大な面積がある国で60平米で13万て。しかも2012年はアメリカの不動産価格が底を打っていて、買えるものなら買っておくのが正解だった。

また、必需品たる車を最初に買うときも、ローンをお願いしに言ったら唯一認められたのは以下のような方法だった。

 1)まず車の価格分(100万としましょう)のお金をそのローン会社に入れる
 2)そこから毎月一定額を返し続ける(という形式にする)
 3)こうするとヒストリーに毎月きちんと支払ったデータが残り、半年後くらいからスコアに反映する

でも、これだと100万円をまるまる人質に取られので、思案の結果使うのはやめた。


いかがだろうか。あなたの日本での社会的・経済的活動における「実績」が、たかがクレカの取得などというつまらないことに関してはここでは何の意味も持たないことがお分かり頂けたであろうか。そして、クレカがないと様々な不便と不利益を激しく被る社会であることも。

以上を含め、最後にアメリカのクレジットカードのことを以下にまとめておきたい。

・アメリカでローンを組む際は一定以上のクレジットスコアが必要
・アメリカで一般的なクレジットカードを作るにも、一定のクレジットスコアが必要
・日本でのカード使用履歴はスコア計算の対象外。アメリカに来て日系のカードを使っても対象外
・当たり前だがアメリカで現金をいくら使っても、それも計算の対象外(現金の動きは把握できない)
・アメリカの通販はアメリカのカード以外却下されることが多い
・そこで普通、最初のカードはデポジット(預託金)を入れて作る「セキュアカード」になる
・セキュアカードを使ってきちんと返していると、スコアが徐々に上昇していく
・スコアが一定以上になると以下の現象が起こる
 └とうとう色々なカード会社から「入らない?」と手紙が届き始める
 └これまで通らなかったローン審査に通る
・新たなローンを組むとスコアが落ち、これをきっちり返していくと再度スコアが上がっていく

ではまた。