凄まじい忙しさがここまで書けなかった理由だ。書く気力が起きないほど忙しかったし、何を書いていいかわからなくなるほど、今の人生の在り方にこれまでにないほどの疑問が生じていた。いや、今でもこの疑問は残っている。疑問とは、「サラリーマンとしてアメリカにいること」だ。

 

ところで、"Help!"という曲がある。John Lennonが作ったビートルズの曲だ。下に大意を書いたが、結構長いので適当に読み飛ばしてもらってもいい。

 

 今よりずっと若かったころ、俺は他人を必要とすることはなかった

 でも最近は自分に自信を失いかけている

 だから俺は心を入れ替えた。自分の心の扉は開放しないといけないんだ

 出来るなら助けてくれ、俺は今落ち込んでいるんだ

 そばにいてくれるのなら心から感謝するから

 俺がもう一度足元を見直せるようにどうか助けてくれ

 どうかどうか俺を助けてくれないか

 

 もう人生はすっかり変わってしまい 俺の独立自尊は雲散霧消したかのようだ

 そして時々不安に苛まれる かつてないほど、俺には君が必要だ

 出来るなら助けてくれ、俺は今落ち込んでいるんだ

 そばにいてくれるのなら心から感謝するから

 俺がもう一度足元を見直せるようどうか助けてくれ

 どうかどうか俺を助けてくれないか

 

ざっくりこんな歌詞だ。Johnは若い女の子の受けを狙って恋愛ソングっぽい響きになるように「君が必要」といった歌詞を組み込んではいるが、彼はこの曲で、それまでの自信たっぷりだった自分が、今や己を見失いつつあることへの不安を吐露していた。よく25歳くらいの若者がこんな歌詞を書いたものだ。

 

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サラリーマンとしてアメリカで生活する想定は、元々渡米時にはなかったことはここでも散々書いてきた。そもそも20113月時点で、サラリーマンとして生きることを辞め、外国人相手の行政書士か個人輸入代行で生きようとしていた。その時47歳。まだグリーンカードは当たってもおらず、妻が秘かに応募していたことさえ知らなかった。その年の夏にグリーンカードが当たり、アメリカで生きる決断をし、生きる手段として選んだのは当然行政書士ではなく代行屋の方だった。主力となる代行対象商品をアメリカ版iphoneに定め、実際201210月に渡米して輸入代行屋を開業した。

 

代行屋の生活には確かに多くの苦難があったが、何とか顧客の支持を受け、2014年に円安やアメリカ版iphoneの日本版に対する比較優位性の低下によって業態転換待ったなしになるまで、慎ましいながらも生活を続けることが出来た。個人事業主として生きることが僕のしたいことだったから、生活が苦しいからといって辞めたいとは全く思っていなかった。ただ、そのままではいずれ生活が立ちいかなくなるのはわかっていた。

 

何をして生活の糧を得るか。毎日あれこれ考えている中で、20153月に日本でのコアスキルだった人事の経験を活かして人事評価制度をコンサルとして作る仕事を得た。まごうことなき個人事業主の仕事だ。だからこの時はまだ「自由」だった。自分を拘束するのはあくまで自分であり、いいものを作り上げるための時間配分も作業方法も、全ては自分次第だった。顧客が自分のサービスや成果物に納得しなければいきなりサヨウナラ。降格も減俸も異動も経ず、契約終了か解除、下手すれば損害賠償という結果があるだけ。確かに身分は安定しないが、そのようなスタイルが僕は好きだったし、今でも好きだ。

 

201510月、人事制度一式を完成させる目途が立ち、12月に予定通り契約が終了することになった。さあ、次に何をして生活の糧を生み出すか。コンサルで得た収入は日本でのサラリーマン時代の金額に匹敵し、生活は非常に安定したが、では1月から何をすべきか。僕はカレー屋をやりたかった。または、アメリカへの移住希望者への援助サービスというアイディアもあった。

 

しかし、僕はそれを実行に移さなかった。10月下旬、コンサルとして人事制度を納入した会社から社員として入るようお誘いを受け、これを受け入れたからだ。しかし本当の要因はそれではない。僕には、自分が考えている起業アイディアを実行に移す自信も胆力もなかったのだ。せっかくのオファーを断って自分のこだわりを貫いたとして、最低限生きて行けるだけのお金を生み出せるのか。僕はその自問自答の果て、「サラリーマン的安定」を選んだ。

 

個人事業主であれサラリーマンであれ、最終的にはお客様からお金をもらって生活している。その意味では何も変わらない。顧客の支持がなければ企業も個人も成り立ちはしない。ちなみに、僕ほどその思い(=顧客の支持が全ての源泉)が強い人間は、僕の知る限りサラリーマンにはそんなに多くはないだろうと自負している。ではサラリーマンと個人事業主の違いは何か。それは働き方の違いだ。もう少し狭く定義すると、サラリーマンは「自分流のやり方」を組織の中で貫き通すことが出来ないということだ。当たり前のことだが、これが僕には苦痛なのだ。


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サラリーマンになってからも、時間があればLas VegasDeath Valleyに行ったり、カリフォルニアに住んでいればこそ気軽にできることを楽しんできた。しかしこの半年は、大好きな砂漠の一本道を運転中に、Vegasの人混みに紛れて目抜き通りを散策中に、会社のことが頭をよぎってしまい、楽しさも半減していた。自己分析してみれば、理由はこうだ。

 

サラリーマンである限り、自分に決定権があるなら絶対そんな判断はしない、または自分ならそんな方法は取らないといったことでも、会社の方針に従って決められた手法で対応し、かつ成果を出さなければならない。それが僕にはバカバカしくて仕方がない。なのに、そこまでバカバカしいと思う環境から抜け出すことが出来ず、しかもいい加減な仕事はしてはならないし、結果を出さなければならないというプライドもある。結果、バカバカしいのに真剣に対峙してしまい、休み中にさえ割り切って自分を解放することが出来ない。

 

仕事をいい加減にやったり評価を気にしない神経があればまだいいが、余計なプライドが邪魔して自分の時間を犠牲にして仕事のことを考える。(僕からすれば)無意味な仕事を命じられたこと自体に苛立つ。そして、そんなことに自分の時間を犠牲にしている事実に段々腹が立ってきて「僕に完全な自己決定権があれば、こんなバカげた状況からサヨナラできるのに」と思うが、現実はサラリーマンのままなのだからそのような願望は決して果たされることはなく、結果として現状を嘆き、苛立ち、苦痛に感じるという無限ループが続いているわけだ。このような心の在り方は、確実に身体にも悪影響を与えるので、この半年は体調不良との戦いをも強いられることになった。

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ここまで仕事に疑問を抱きながらやっているが、仕事から逃げているわけでも結果を出していないわけでもないので、幸い僕は会社ではそれなりの評価を受けている。それ自体はとても有難いことだ。でも、「働き方」自体に違和感があるのでは、評価されてもされなくても苦痛は緩和しない。僕には僕が思う優先順位があるが、組織はそう考えてくれるとは限らない。僕には最も効率的な働き方や作業方法があるが、そのまま組織には持ち込めない。いつ休み、いつ働くか、または何時間仕事を継続し、何時間休憩を入れるか。僕は、必要があれば20時間連続で働くことも苦にならないが、この必要性を自分自身で決める自由がサラリーマンは制限される。結果として、僕は自分の流儀を犠牲にして組織に合わせるという生き方を選んでしまっているわけだ。

 

これを「考えが甘い」と指摘する人がいるならば、お門違いだ。僕は自分の流儀を会社が受け入れるべきだとは露にも思っていない。自分の流儀で働きたいなら、早いとこ個人事業主に戻るべきだと思っている。しかしそうしない自分。そうできない自分。それを嘆いている自分。そこから脱却できないのはひとえに僕自身の責任だと強く自覚している。自己決定の自由。僕が渡米前から希求していたものはそれでありながら、今はそれを行使できている感じが皆無な状況。その原因は会社ではなく、100%自分にある。自業自得だ。

 

だから、この苦痛に終止符を打つ方法は結局一つしかない。サラリーマンとして生きる生活を辞めることだ。「会社員は皆多かれ少なかれバカバカしさや不条理とうまく付き合いながらやっている」という意見には同意する。「それでも不満があるなら、さっさと辞めて個人事業主でも俳優でもホームレスでもなんにでもなれ」という突き放した意見にも100%同意する。いや、完全な正論だと思うから。

なので、あとはいつ実行に移すか、だけ。サラリーマンを辞めてから、ではなく、続けながらどう準備していくかが重要。そう心得ております。

以上、ちょっと重かったですね。でも、このテーマで一回書いておかないと、いつまでも軽い話を書く気が起きないと思ったんですね。だから次回こそは「自分関係の重い話」ではなく、トランプのこととかカリフォルニアの日本食屋のこととか、そういう話を書きますね。それではまた。


え?アメリカの会社でもそんなにキツいのかって?まあ
僕が勤めているのは在米日系企業だから、普通のアメリカ企業より「日本の会社」の感じに近いとは思うけど、サラリーマンが個人事業主に比べて自己決定権がない/少ないのはどの国も一緒です。だから僕のように自己決定の自由が最重要だとかほざく人間は、どの国に行ってもサラリーマンはやらない方がいいのでしょう。一方日本でサラリーマンとしてやってこれた人なら、アメリカの企業なら日系であれ何であれ務まりますよ。あ、日系にはビザのスポンサーの地位を利用したブラック企業は一部ですが存在するようだけど。。。