お久しぶり。このセリフ、聞かされる方も飽きたと思うが、とにかく忙しいんだからしょうがない。と開き直りつつ、今日は健康保険の話をしたい。

さて、言うまでもなく、アメリカの健康保険は国が運営する高齢者や低所得者のためのものを除き、民間会社が扱う。僕のいる会社でも年に1回の契約改訂時期が近づき、これからどの保険会社のどんなメニューを選択し、いくら保険料を払うかを決めなければならないフェーズに入った。

 

そして昨日、僕は人事の前任者と共に、健康保険の内容について保険代理店の方からヒアリングするミーティングに出席し、そこで保険に関する資料を見、解説を聞いた。僕がアメリカでサラリーマンとして、特に人事として働かなければ絶対に経験できなかったことだ。

 

 ***

 

アメリカの健康保険は原則民間会社が運営し、企業は数ある保険会社からそのメニューや掛け金を元にベストなものを選択していく。ちなみに、普通の健康保険は体だけに適用され、歯と目に関してはまた別の保険に加入する必要がある。但し保険料は体ほどは高くない。

保険会社は社員の給与やその家族の被保険者数などを元に保険料を概算するが、保険のカバー内容が手厚いものほど高額に、そうでないものほど低額になっていく。

 

保険料によって保険がカバーする内容にどんな違いが出るかというと、端的に言えば以下の通りだ。

 

保険料

行ける病院数

初診料

自費出費率

保険適用額

高い

多い

低い

低い

多い

低い

少ない

高い

高い

少ない

 

つまり、保険料を高く払うとその後の病院の選択肢が広くなり自分が負担する治療費が安くなるが、保険料をケチると、一旦病院にかかる状況になった場合に不便で高くつくというわけだ。

 

保険料は社員と会社が負担するが、その負担率は原則自由に設定できるので、会社が多めに負担してくれるのは社員にとって嬉しい仕組みになる。なにしろ給与の額面が高いのに、保険で控除される額が大きいために手取りがぐっと少なくなることさえある。だからアメリカで働きたい人の中には、給与だけでなくその会社の保険や年金も頭に入れている人もいる。

 

僕の会社は、そもそも10段階で8くらいのレベルの保険内容になっているが、これは勿論世間相場ではいい方だ。そして会社は保険料の67%を負担するので、社員にとっては恵まれた環境だと言える(本当にリッチな会社なら会社が全額負担する場合もあるとか)。

 

ところで、保険をどの会社のどのメニューに決定するかは様々な比較が必要だが、幸いアメリカには保険会社の間に立つ代理店が存在し、西海岸には日系の会社も多く、うちの会社の代理店も日系なので様々な情報をわかりやすく教えもらえた。

 

検討の末、結果的にこれまでと同じ保険会社、同じメニュー、同じ負担割合で行くことになったが、保険料は基本的には年々上がるので、体力がない会社はメニュー内容を下げるか社員負担率を上げるしかなくなる。僕がコンサルの時に「御社はいい会社です」と社長によく言っていたものだったが、社員になって再度この会社の「厚い待遇」を実感した。

 

 ***

 

ミーティング後、代理店の方二人と僕を含む社員三人で昼食に行った。そこで色々話したが、ここでオバマケアというのは実効性があまりないという事実を知った。

 

アメリカには3つの健康保険が存在する。一つは65才を越えると加入できる「メディケア」という国が運営する保険で、もう一つは低所得者用のメディケイドというこれも国が運営する保険、そして普通の民間会社の保険だ。

そしてオバマケアとは、保険の種類を増やしたとか保険料を安くしたとかの改革ではなくて、
国民全員がなんらかの健康保険に加入することを義務化したものだ。だが、基本的に保険料を国が負担するメディケアやメディケイドでは、行ける病院も受けられる治療レベルも限られている。

例えば、メディケアの仕組みで保険料自己負担ゼロのメニューを選択すると、健康保険でカバーされるのは入院した場合のみであり、ただの外来で受診する場合や薬を処方された場合は全額自己負担になる。
ということは、入院するに足る病気以外、つまり風邪、インフル、腹痛、胃痛、虫歯などは、とにかく市販薬で治せということだ(虫歯は薬で我慢するにも限界があるだろ!)。


しかも、だ。これまで自己の選択として保険に入らなかった「普通の人々」もオバマケアで加入を強制されたわけだが、これまで保険に入らない選択をしていた人々や企業なんて、全然高所得者でもないし大儲けしている企業でもないわけだ。だからこういう人にとって保険料は大きな負担になるわけだ。

それでも加入しないと違法である以上加入はするわけだが、まともな医療サービスを受けたいと思うとその保険料は半端なく高くなり、保険料は最小にしようと抑えると治療レベルは落ち受診可能な病院は極少になり、殆ど加入している意味がないようなしろものになる。

つまり結局は、
オバマケア導入後もなおアメリカは「病気の沙汰も金次第」の状況のままということだ。日本のように誰でも行きたい病院で受けたい治療を3割負担で受けられ、ちょっとお腹が痛いくらいでも受診OKで、手術で治療費が高額になると還付金も受けられるといった制度とは雲泥の差だというのはお分かりいただけるだろう。


 *** 

 
でも、日本人が一大決心してアメリカに来ようとしたときに、保険の心配をしてる人ってそんなに多くはないと思う。僕も全然心配しなかったし、端から無視していた。でも、今年に入って日本で20年前に治療した歯が次ぎ次ぎとダメになって今歯医者に行ってるけど、保険がなかったらとても行けてないし、その治療費に呆然として行く気さえおきなかったろうと思う。


わざわざアメリカを目指す人には、そもそも保険の心配なんてしない屈強なマインドを持つのも重要だと思う。でも、一旦病気になった時に備えがないのは確かに怖い。オバマケア以降、無保険は罰則をくらうので何かしらの保険に入ることになると思うが、アメリカで会社員として生きるのなら、志望企業の保険と年金のプランがどうなっているかは調べておいて損はないと思う。


<追記>
僕の治療内容は4本の歯の土台再作成、うち2本は根っこ再治療、その4本の歯には日本で言うとこころの「保険の効かないクラウン」を全てかぶせるというもの。総費用は100万、自己負担分は40万だった。日本で保険の効かない歯を4本入れたらそれだけで40万は越えるので、実はアメリカの保険は日本のよりも割りが良くなることさえある。これは驚きだった。